極・ウイスキーノート

ウイスキーについて調べたことの共有と、カフェバーの経営で感じたことをつらつらつづっています。

政治と健康と、刺激的な人生を『オールド・パー』

Grand Old Parr aged 12 years


Scotland-Campbelltown
McdonaldGreenlees
Blended whiskey
Alc.40%vol.
MHD


1873年に岩倉具視率いる遣欧使節団が、スコッチウイスキーを初めて日本に知らしめた。
その記念すべき一本がオールド・パーに他ならない。


オールド・パーはトマス・パーという152歳9ヶ月という驚異の長寿を全うした男性の名を冠したものだ。
ボトルにもその肖像が描かれているが、これはフランダースの犬でも知られるルーベンスが描いたものを用いていると言うから驚きだ。
彼は105歳で不義の子供をもうけ、これを当時の首相チャーチル一世の前で披露したことも驚嘆に値するが、その後122歳で再婚したというので、もはや言葉が出ない。
現在は歴代の著名人の眠るウエストミンスター協会に安置されている。


話は遡るが、岩倉遣欧使節団が帰国した後に明治天皇に献上されたという逸話も残っている。
時は流れ、かの有名な田中角栄が吉田茂より手解きを受け、オールド・パーを愛飲していた。
オールド・パーの独特なボトルはトマス・パーがワインを飲む際の陶器を表しており、写真の通りボトルの角で立つ。
これが「右肩上がり」「決して倒れない」と政治家に愛飲される要因の一つである。


オールドと言えば、サントリー・オールドを思い浮かべる方もいるかと思うが、一説にはこれはオールド・パーのオールドに由来していると言われている。
またサントリー・オールドのラベルの「O」と「P」が赤く大文字なのも、オールド・パーのオマージュだとも言われている。


その味わいはブラッドオレンジや金柑の様なすっきり甘さと、仄かな蜂蜜の薫り。
キーモルトのクラガンモアの特徴を受け継いでいる。
吉田茂や田中角栄も愛した飲み方が、ウイスキー1に対して水2で作る水割りで、水を加える事によって仄かなスモーキーさが出てくる。


健康で刺激的な人生のお供に。
それがオールド・パー。

明日話せるウイスキー小話

ウイスキーといえば、銘柄が多すぎるし、どれも同じような味でその違いも分かりづらいし、なんだか難しそうというイメージはないだろうか?
そんなイメージをもってもらっている人が多いということは、この際とてもいい状況だと割り切って記事を読んで頂きたい。
なぜなら基本となるところはそれほど難しくないし、何よりいつも飲んでいるウイスキーがおいしく感じるようになる。
何が言いたいかというと、ウイスキーは舌と鼻と味わうだけではなく、頭でも味わえるものでもある。


初回である今回は、


「ウイスキーとは?」


ウイスキーとは、大麦などを主原料にした蒸留酒である。
この大麦っていうのがみそで、要はビールを蒸留するとウイスキーになる。
お酒を飲むときに気になるカロリーといった意味で、近年のヘルシーブームでハイボールが飲まれるようになってきたが、ウイスキーは大体100gあたり250kcal。ビールはというと100gあたり40kcal。


ん?


ウイスキーの方が高いのでは…


ご心配なく。


大体ハイボールだと一杯200gとしてウイスキー1shot30gなので75kcal、ビールだと80kcalなので、若干低い。
それにプリン体ゼロで、糖質も半分以下なので、成分的に健康面からはビールの上位互換になっている。
それにアルコール度数から言えば、大体ウイスキーが40%なので、ハイボール一杯200gだと6%前後となって、アルコール度数5%のビールと同じ価格なら少し強めで、すぐに酔えるという特典付き。
要は、ウイスキーは親戚のビールより健康的に飲めて酔えるということ。


※飲みすぎはだめ。


小話として、ウイスキーの語源はゲール語で、
「uisge beatha(ウィシュケ・ベアハ)=命の水」
から来ており、この「uisge(ウィシュケ)=水」がなまって「whisky(ウィスキー)」になった。
文字通り「水」みたいに飲んだら大変なことになるが、適量ならさっきも言った通り健康的な「命の水」ということになる。


このブログでは、よりウイスキーを身近に感じてもらいたいという思いから、普段からお店で買って飲めるようなウイスキーを紹介していくが、中にはとてつもなく高価なウイスキーもある。
例えば「ウイスキー界のロールスロイス」ことマッカランだと、amazonで買える最高級品は100万円を超えてくる。



※正直ボトル80,000円でも結構びびる…


少し話がそれたが、実はウイスキーの綴りには二種類あり、「whisky」「whiskey」が二種類あって、どちらも間違いではない。
主に「whisky」はスコットランドを始め多くの国で採用されているが、アメリカのものは多くが「whiskey」が採用されてる。
これはアメリカでウイスキーが流通し始めた当初ウイスキーは非常に高価なものであり金庫で保存していた。
この「whiskey」の「key」は金庫の鍵を意味していて、それほど大事なものであるということを表している。
アメリカのウイスキーといえば、テネシーウイスキーの代表格ジャックダニエルの創業者、ジャスパー・ニュートン・ダニエルは空かない金庫に腹を立てて蹴り飛ばしたところ、つま先を怪我してそこから敗血病で亡くなったというのは、なんとも皮肉の効いた話である。


ウイスキーの歴史は長く、その流れの一部でも知っていればいつも飲んでいるウイスキーをもっとおいしく感じることができます。
例えば、田中角栄がオールド・パー、フランク・シナトラがジャックダニエル、そんな自分専用の愛着の持てるウイスキーを探すお手伝いが、このブログで出来たらうれしいです。


長文を読んで頂きありがとうございます。

短気なプレイボーイと音楽の女神『ジャックダニエル』


Jack Daniel's old No.7
America-Tennessee
Tennessee Whiskey
Alc.40%vol.
アサヒビール株式会社


1866年創業のジャックダニエル蒸留所は、創業者のジャスパー・ニュートン・ダニエルの愛称をそのまま冠している。ダニエルは7歳で教会の運営する蒸留所で働き始め、13歳で責任者に抜擢されるほど優秀な青年だった。


今回紹介する世界一単一銘柄で売れているNo.7は試作品七号と言う説がある。しかし、異説としてプレイボーイで生涯未婚を貫き通したダニエルの恋人の数だとも言われている。ダニエルの死因は開かない金庫を蹴り飛ばした際に爪先を痛め、それがもとで帰らぬ人となったという短気な一面もある。


ジャックダニエルと言えば、エルビス・プレスリーやジミー・ペイジ、フランク・シナトラなどの名だたるミュージシャンに愛飲されており、音楽とは切っても切れない関係にある。中でもシナトラについてはオリジナルボトルとして2012年に「シナトラセレクト」が発売されており、今でも購入が可能。


味わいは、初心者にも飲み易いバランス型で、バニラやキャラメルのような風味。またバーボンならではのコーン含有割合80%という点と、テネシーウイスキーと名乗るために必要なメープルシロップを採取するサトウカエデを使って濾過をする特殊製法からその甘味は複雑かつ個性的。


アメリカの音楽の都テネシーで生まれ、今も昔もアメリカの音楽にはジャックダニエルが欠かせない。


(下記に専門家向けの追加コラムあり)




[ここからはちょっと専門的なお話]


ジャックダニエルは、ウイスキーとして珍しい硬水を仕込み水につかったウイスキーである。


採水はケープスプリング。


硬水の定義としては、ミネラルの含有量で計算されるが、日本では習慣的に下記の通り分類されている。


100mg/l未満…軟水


100mg/l以上300mg/l未満…中硬水


300mg/l以上…硬水


計算式:硬度=カルシウム×2.5+マグネシウム×4.1


カルシウムとマグネシウムは酵母の増殖に必要なもので、穀物成分の抽出力の観点から軟水が適していると言われている。


そういった背景から考えると、ジャックダニエルを、常温の水を基本的に1:1の割合で飲むトゥワイスアップで飲む場合には、ある意味硬水を使った方が適しているのではないかとも考えられる。


またアメリカはトウモロコシ、ここではウイスキーに適したデントコーンをウイスキーの原料として使うことが多く、連邦法ではコーン含有量51%~80%がバーボン、81%以上をコーンウイスキーと分類している。


ジャックダニエルのコーン含有量80%と高く、コーンの甘みと飲みやすさが特徴的。


またジャックダニエルはバーボンではなくテネシーウイスキーと呼ばれる。


これは通常のバーボンの規定に追加して、下記の要件が必要となる。
①テネシー州で製造される。
②メープルシロップの原料となるサトウカエデを使って濾過をするチャコール・メローイングという特殊な製法で作られたものであるということ。
上記を満たすことによってテネシーウイスキーと名乗ることが可能となる。
蛇足ではあるが、連邦法だとウイスキーと名乗るために190度プルーフ未満で蒸留液を製造し、オーク樽で熟成させ、80度プルーフ以上で瓶詰めする必要がある。


もし、ジャックダニエルを直接現地で飲む場合には注意が必要だ。
というのも、ジャックダニエル蒸留所のあるテネシー州ムーア郡では、ドライカウンティと呼ばれる禁酒法があり、蒸留所以外での酒の販売、飲酒が不可とされている。
これは飲酒による犯罪の抑止を立法趣旨として制定されたものであり、他の蒸留所を訪問する際にも事前に調べていかなければひどいことになる。
このような禁酒法が1919年に施工され、これまで50年以上続いてきた蒸留所が軒並み実質閉鎖状態となった。
これによりカナディアンウイスキーが一躍注目を浴びるようになったが、詳細は今後のブログに任せる。


以上、アメリカのウイスキーを語る上でジャックダニエルは欠かせないので、きちんとした研究が必要な銘柄である。
今後も研究が進み次第、ブログの更新を行っていく見込みである。