極・ウイスキーノート

ウイスキーについて調べたことの共有と、カフェバーの経営で感じたことをつらつらつづっています。

短気なプレイボーイと音楽の女神『ジャックダニエル』


Jack Daniel's old No.7
America-Tennessee
Tennessee Whiskey
Alc.40%vol.
アサヒビール株式会社


1866年創業のジャックダニエル蒸留所は、創業者のジャスパー・ニュートン・ダニエルの愛称をそのまま冠している。ダニエルは7歳で教会の運営する蒸留所で働き始め、13歳で責任者に抜擢されるほど優秀な青年だった。


今回紹介する世界一単一銘柄で売れているNo.7は試作品七号と言う説がある。しかし、異説としてプレイボーイで生涯未婚を貫き通したダニエルの恋人の数だとも言われている。ダニエルの死因は開かない金庫を蹴り飛ばした際に爪先を痛め、それがもとで帰らぬ人となったという短気な一面もある。


ジャックダニエルと言えば、エルビス・プレスリーやジミー・ペイジ、フランク・シナトラなどの名だたるミュージシャンに愛飲されており、音楽とは切っても切れない関係にある。中でもシナトラについてはオリジナルボトルとして2012年に「シナトラセレクト」が発売されており、今でも購入が可能。


味わいは、初心者にも飲み易いバランス型で、バニラやキャラメルのような風味。またバーボンならではのコーン含有割合80%という点と、テネシーウイスキーと名乗るために必要なメープルシロップを採取するサトウカエデを使って濾過をする特殊製法からその甘味は複雑かつ個性的。


アメリカの音楽の都テネシーで生まれ、今も昔もアメリカの音楽にはジャックダニエルが欠かせない。


(下記に専門家向けの追加コラムあり)




[ここからはちょっと専門的なお話]


ジャックダニエルは、ウイスキーとして珍しい硬水を仕込み水につかったウイスキーである。


採水はケープスプリング。


硬水の定義としては、ミネラルの含有量で計算されるが、日本では習慣的に下記の通り分類されている。


100mg/l未満…軟水


100mg/l以上300mg/l未満…中硬水


300mg/l以上…硬水


計算式:硬度=カルシウム×2.5+マグネシウム×4.1


カルシウムとマグネシウムは酵母の増殖に必要なもので、穀物成分の抽出力の観点から軟水が適していると言われている。


そういった背景から考えると、ジャックダニエルを、常温の水を基本的に1:1の割合で飲むトゥワイスアップで飲む場合には、ある意味硬水を使った方が適しているのではないかとも考えられる。


またアメリカはトウモロコシ、ここではウイスキーに適したデントコーンをウイスキーの原料として使うことが多く、連邦法ではコーン含有量51%~80%がバーボン、81%以上をコーンウイスキーと分類している。


ジャックダニエルのコーン含有量80%と高く、コーンの甘みと飲みやすさが特徴的。


またジャックダニエルはバーボンではなくテネシーウイスキーと呼ばれる。


これは通常のバーボンの規定に追加して、下記の要件が必要となる。
①テネシー州で製造される。
②メープルシロップの原料となるサトウカエデを使って濾過をするチャコール・メローイングという特殊な製法で作られたものであるということ。
上記を満たすことによってテネシーウイスキーと名乗ることが可能となる。
蛇足ではあるが、連邦法だとウイスキーと名乗るために190度プルーフ未満で蒸留液を製造し、オーク樽で熟成させ、80度プルーフ以上で瓶詰めする必要がある。


もし、ジャックダニエルを直接現地で飲む場合には注意が必要だ。
というのも、ジャックダニエル蒸留所のあるテネシー州ムーア郡では、ドライカウンティと呼ばれる禁酒法があり、蒸留所以外での酒の販売、飲酒が不可とされている。
これは飲酒による犯罪の抑止を立法趣旨として制定されたものであり、他の蒸留所を訪問する際にも事前に調べていかなければひどいことになる。
このような禁酒法が1919年に施工され、これまで50年以上続いてきた蒸留所が軒並み実質閉鎖状態となった。
これによりカナディアンウイスキーが一躍注目を浴びるようになったが、詳細は今後のブログに任せる。


以上、アメリカのウイスキーを語る上でジャックダニエルは欠かせないので、きちんとした研究が必要な銘柄である。
今後も研究が進み次第、ブログの更新を行っていく見込みである。